先祖を祀る

お墓づくり

東光院萩の寺住職 村山廣甫

土の上に人を置き、日が当たって草が覆う「墓」という文字の示すとおり、わが国では古来、亡き人の遺体を「土に遷(かえ)す」ことが大切とされてきました。ところが、仏教では、五大(地・水・火・風・空)を念じて塔として建てたものがお墓とされます。それは、大宇宙そのものであるとともに、永遠の生命を象徴しているのです。伝来した仏教の葬法である火葬の考え方は、わが国の遺体を土葬した「捨(す)て墓(ばか)」と、別の場所に建てる「参(まい)り墓(ばか)」という両墓制にも、大きな影響を与えてきました。この捨て墓の上に石碑を建て、参り墓と一体化して単墓としたのが、現在のお墓の基本となっているのです。

お墓は、ご先祖さまへのご供養の気持ちを、永遠の形として表現したものです。お墓参りとその作法については、「お盆のお墓参り」(151ページ)および「お彼岸会とお墓参り」(173ページ)で、なおご法事の準備としてのお墓の掃除「お墓とお仏壇の掃除とお飾り」(206ページ)で、また、建碑式ならびに納骨法要については、「建碑式ならびに納骨法要」(127ページ)および「百カ日(卒哭忌)の納骨」(124ページ)ですでに詳細に説明してまいりました。ここでは、より実際的なお墓づくりについて紹介しましょう。

さて、お墓づくりには、通常、次の九つのプロセスが必要です。墓地の決定から、墓石の建立までの期間は、約一カ年くらいはみておくべきでしょう。結果的に、納得のいくお墓づくりを考えるなら、余裕をもって準備することがポイントです。

1. 墓地選び(寺院境内墓地か公営・私 営共葬墓地)
2. 永代使用料の完納
3. 永代使用認証の交付
4. 墓石・工事の発注
墓石選び(大きさ、形、石質、価格)および墓石の注文・契約(文字、家紋、支払条件)
5. 墓石・工事代金内金の支払い
6. 墓石の建立
巻石(まきいし)・下廊土(カロート)(納骨室)等の基礎工事および本体据付工事(文字、家紋等の確認)
7. 墓石・工事代金の完納
8. 竣工・引き渡し
9. 納骨開眼法要(建碑式)

さらに、現在わが国では、墓地・埋葬などが国民の宗教的感情に適合し、かつ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的として、「墓地・埋葬等に関する法律(昭和二十三年五月三十一日法律四八号)」およびこれに基づく「墓地埋葬等に関する法律施行規則(昭和二十三年七月十三日厚生省令二四号)」が定められており、この法令を基本として、墓地行政が行われていることを、お墓づくりの念頭においておかなければならないでしょう。

墓地選び

私たちが、亡き人の冥福を祈って追善供養することを、「菩提を弔う」といいます。菩提とは、煩悩を断って得られた、崇高を悟りの境地のことです。この菩提を弔うところが菩提所であり、それぞれの家の菩提所が菩提寺です。また、仏教でダーナ「布施をする」という意味の、「檀那」という言葉があります。お寺を護持し、ご住職をはじめ僧侶方に布施をする人のことを、家単位でダーナの家(いえ)、「檀家(だんか)」と呼びます。お寺や僧侶は、仏教の教えを説くとともに、これら布施をする檀家の人たちを、信者として導いていきます。これを法(ほう)の布施といい、やはりダーナする寺として、「檀那寺」と呼ばれるのです。

したがって、墓地を選ぶ場合にもっとも理想的な場所といえば、檀那寺である菩提寺にまさる所はありません。しかし、実際問題として「寺院境内墓地」の供給には限度があります。そこで、昨今では、大規模な公園墓地(霊園墓地)が造成され、都市部における墓地供給の主流となってきています。

公園墓地には、都道府県・市町村など行政府単位が経営する「公営墓地」と、宗教法人や財団などの公益法人が経営する「民営墓地」の二種類があります。さらに、地区の自治組織が管理する、「共同墓地」もこれに準じたものと考えてよいでしょう。

菩提寺の境内に墓地を求めるのがいちばんですが、諸々の事情でその入手が困難な場合は、公園墓地を選ぶほかありません。この場合、次のポイントに留意すべきです。

  • 「半円参り」といわれるように現在の居住地から遠くないお参りしやすい場所
  • 少し離れる場合は、交通機関(鉄道やバス等)や道路網(車のコースやタクシーの便等)が整備され、交通の便もよく気軽に行ける場所
  • 水はけや風通しがよく、静かで陽あたりがよい、環境に恵まれた場所
  • 設備・管理体制はしっかりしているか、造成工事はどうか
  • 事業主体はどうか、経営主体は信用できるものか。その墓地の永続性、非営利性が確保されているかどうか
  • 使用にあたっての規則・制限はどうなっているか
  • 永代使用料と管理費、その他どのような費用が必要なのか

使用認証の交付

菩提寺の境内墓地にするか、公営・民営の公園墓地にするかを決めたら、決められた額の使用料を支払い、その墓地の「使用認証」の交付を受けます。

墓地は買うのではない

よく墓地を買うといいますが、これは正しくない表現です。墓地は宅地などと違って、土地そのものの所有権を売買するのではなく、その土地を、墓地使用の目的で、固定性・永久性を伴って支配できる財産権を、手に入れることなのです。これを学問上「墓地使用権」と呼んでいます。墓地としての固定的・永久的な使用権ですから、その対価を支払います。これが墓地の「使用料」です。半永久的に承継される使用権の場合には、「永代使用料」ともいいます。

墓地使用規則を知ろう

「墓地使用権」を得るには、まず、それぞれの墓地の経営主体もしくは管理者による、「墓地使用規則」をよく理解し、これを認容しなければなりません。土地の所有権を取得するのではなく、使用権が設定されるのですから、それについてはさまざまな制約があります。自治体が経営・管埋する公営墓地の場合は、この規則は条令で定められています。たとえば、東京都霊園使用条令や大阪市設霊園条例などがそれです。この墓地は宗教的な制約はありませんが、応募資格が限定されているのがほとんどです。寺院境内墓地は当然のことながら、檀信徒に限るという宗教的制約を設けています。しかし、宗教法人経営の墓地であっても、境内墓地と異なる場合は、これらの宗教的制約は少ないようです。財団法人などの公益法人が経営する墓地では、公営墓地のような現住所や本籍の制限はなく、また、宗教的制約もありません。誰でも申し込める墓地として、郊外型が多いようです。

墓地使用規則には以上のような

  • 墓地使用者の資格に関するもののはか
  • 墓地には使用権者の家族だけが納骨されるのが原則ですが、管理者の許可があれば親族やその関係者も納骨できるかについて
  • 使用権の承継について、その中請方法や管理者の許可、さらに管理者の許可を得れば譲渡も可能なのかどうかについて
  • 使用権が取り消される場合の諸要因(特に寺院境内墓地では檀信徒としての義務違反がある)について
  • 石材店の指定や墓石の規模、巻石工事などの負担行為について
  • 管理費等の支払義務、ならびに転居先、住所等の通知義務について
  • 不要になった場合の無償返還規定(寺院境内墓地)について

それぞれ定められているのが一般的です。

なお、入手した墓地を、将来、身内の人間以外に譲渡する可能性のある場合は、特に譲渡を許可しているところを選ぶべきです。しかしその場合でも、事前の申請が義務付けられていることが多いようです。あとでトラブルが起こらないよう規定の内容をよく検討しておきましょう。

墓地使用規則の一例(寺院境内墓地のケース1部分)
  • 一. 墓地使用は当寺檀信徒のみに許可されるものであることを確認する
  • 二. 墓地使用承認されたるうえは側石其他の方法により使用地の境界を明確ならしむる設備をする
  • 三. 墓地の地形を変更し又は墓碑以外の工作物若しくは樹木の植栽を致さぬ
  • 四. 墓地の風致を害する虞ありと管理者が認める建造は絶対致さぬ
  • 五. 墓地使用権は祭祀主宰者に継承する外他人に譲渡又は貸附致さぬ
  • 六. 墓地の使用の上は改葬其他の事由に依り墓地の全部又は一部を使用せざるに至ったときは無償返還する
  • 七. 墓主名並に住所移動の都度管理者に通知する尚貴寺並に管理者の指示に協力する常に墓参を怠らない
  • 八. 左の各号の一に該当ずる場合管理者より使用取消返還を命ぜられ又は管理者が勝手に整理するも異議なく承知する
    • 使用承認の日より六ヶ月を経過するも二の施設をなさず
    • 本条項又は墓地埋葬等に関する法律による管理者の管理行為を不能ならしむるが如き行為をなすこと
    • この施設するも使用承認の日よりニケ年内に建塔碑せず
    • 管理者たる住職に協力せず、且つ当寺の宗教活動に参加しない
    • 護持会費、及び管理費、三カ年以上滞納の場合
以上右正に誓約の上使用認証下附された事を確認致します。
使用料を支払う

墓地を手に入れるには、一般的に使用料を支払う必要があります。それは、最初に納めると墓地の使用権が永く承継される場合が多く「永代使用料」ともいい、また、永代でなく、一代一代と限定的に認める寺院や霊園もあります。民営の場合、その墓地の所在地付近の、土地売買価格の二~三倍が、一般的といわれています。公営の場合は、格段に安いのですが、応募者が多くなかなか手に入らないようです。お寺の境内墓地は、そのお寺への入檀の意味もあって、使用料というより冥加金(みょうがきん)(ご本尊供養と入檀志納)と考えるほうがよいでしょう。

交付された永代使用認証は大切に保存する

墓地の区画を定めて使用料を支払うと、「永代使用認証」が交付されます。これは土地売買における権利証のようなものですから、大切に保存しましょう。墓地の区画は登記できないので、さっそく巻石などの基礎工事を行って、明認方法(めいにんほうほう)を施す必要があります。

また、墓地使用権が設定された時点から、維持費もしくは、管理費を支払わねばなりません。これは、墓地の中の、共用部分の維持管理のために使用される費用です。なお、寺院境内墓地では多くの場合、壇信徒の護持会費や、寺院維持費をも含んでいます。

この墓地の永代使用権と建立された墓石の所有権は、使用規則に別段の定めがない場合、民法八九七条の規定に従って、「慣習に従って祖先の祭祀(さいし)を主宰すべきもの」すなわち喪主が一括承継することとなっています。

お墓の形と墓石選び

カロート(納骨室)の造成

お墓は、地上の石塔を中心に考えられがちですが、その最も基本となるのがカロート(納骨室)です。地方のしきたりによって、骨壷(つぼ)に遺骨を入れたまま納骨するところがあれば、骨壷から遺骨を出して木綿の袋に入れ、納骨して土に遷すところもあります。これら納骨の作法を考え合わせて、カロートの形や大きさを、石材店と相談して決めればよいでしょう。カロートをしっかり造ることは、お墓の機能上でも大切なことです。どのような立派な石塔を建てても、納骨できないようなお墓を造ってはなりません。

お墓の形と構造

お墓の形に決まりはありませんが、昔ながらの、角石塔型がいちばん広く用いられています。これに霊標(れいひょう)を組み合わせたものがポピュラーです。その他、古くからある五輪塔や宝篋印塔(ほうきょういんとう)も復活しています。幼い子のために、特に地蔵碑を建てて、おまつりする場合もあります。このほかに、横石を使った“洋風碑”も増加しています。お墓は、固定的、永久的な性質を持つものです。奇をてらったような形は避け、誰でも抵抗感がなく、丈夫な形を選ぶべきでしょう。上(二六〇ページ)に、代表的な角石塔の構成を図示しましょう。

墓石選び

墓石で多く使われているのは、安山岩と花崗岩です。どちらも硬くて風化しにくく、磨くと光沢が出ます。まさにお墓に打ってつけの素材であるといえましょう。特に、花崗岩は“御影石(みかげいし)”と呼ばれ、産地によってその色が違います。斑(はん)れい岩やせん緑(りょく)岩を含めた“黒御影”の墓石は、静岡県の大井川以北に多く、“白御影”や“青御影”の墓石は、それ以南に多く用いられています。

これらの石材の三分の一以上が、輸入石によってまかなわれているのが現状です。南アフリカ・インド・スウェーデンからは黒御影、韓国・ブラジル・ポルトガル・中国からは、白御影が輸入されています。専門家でない一般人が石材を選ぶことは、かなり難しいことといえるでしょう。したがって、墓石は、その墓地の地質を知っている、信用ある石材店で購入するように努めなければなりません。土地の気候風土に適した実績のある石材の中で、石質にムラのないものを選ぶべきでしょう。

合掌
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─萩の寺永代供養墓「吉祥林永代塔」受付中─
色とりどりの花に囲まれた、永代供養のお墓です。
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萩の寺の永代供養