先祖を祀る

ご法事の心得

東光院萩の寺住職 村山廣甫

一般に私たちが営むご法事は、次の三つの要素で構成されています。

●追善供養…祭壇の前でお坊さまにお経を挙げてご回向していただきます。
●墓参…故人の眠るお墓へ参会者全員でお参りし、お塔婆を建ててご供養します。
●お斎(とき)…お坊さまを正客(しょうきゃく)に迎え、参会者を招いて、料理やお酒で接侍します。

ご法事の本体ともいえる追善供養では、読経回向をいただくとともに、そのあと、ご法話を拝聴することが大切であることは、すでに述べたとおりです(198ページ)。

それぞれに必要な主催者側ならびに参会者側の心得は列記しましょう。

施主(せしゅ)(主催者)側がすること

ご法事当日の配役を決める

ご法事の運営がスムーズにいくよう に、次の三役を事前に決めておくと便 利です。

1. 法役(ほうやく)

お仏壇やご法事の祭壇を荘厳し、お坊さまによる読経やご回向が無事に進行するよう、会場の雰囲気を整える役割を分担します。お供え物をそろえ、ロウソク、お線香の補充などに気を付けるとともに、お焼香の案内などもします。

2. 接待係

準備段階での招待客の出欠の確認から、ご法事当日の受付、招待客の席の設置と案内、さらに茶菓の接待までを担当します。もちろん、茶菓は法要の間は片付けます。お坊さまや参会者のお相手をするのもこの係です。

3. 料理係

お斎の材料の仕入れ、調理、仕出しの注文、配膳などをする係で、会食後の片付けなども担当します。精進料理を作り、霊供膳を盛り付けたり、お仏飯を盛るのもこの係です。

服装は

昔は弔事の服装は、招く側は常に正式の喪服とされていました。特に、未亡人の服装は、やかましくいわれました。現在でも、葬儀から初七日、満中陰までは、遺族は男女とも正式な喪服を着用するのが礼儀です。一周忌や三回忌などは略礼でよいでしょう。学生の場合は制服、子供についてはグレーなどの地味な色彩の服にします。

七回忌以降は、少しずつ略式にして平服でもかまいません。しかしどんな場合でも、遺族が参会者より軽い服装にならないように注意することが肝心です。しかし、お寺や霊園などを会場としてご法事を営むときなどは、自宅で行うときよりも正式な服装にすべきでしょう。場所と法事の規模、内容なども考慮に入れて判断しましょう。いずれにしても、必ずお数珠(念珠)を持つのを忘れないようにしてください。

席順は

参会者をお招きして、ご法事を主催する施主とその一族は、故人との関係において、“遺族”と呼ばれます。お招きする側としての遺族は、お招きした親族とともに、祭壇に向かって右側に設けられる「親族席」に着座してご法事に参列し、お勤めします。

祭壇に向かって左側は「一般席」で、招待を受けた故人の友人、師長、世話役などが着座します。そのような場所の余裕がない場合は、前面に遺族、その後方に親族一般が続いて座ればよいでしょう。

お坊さまの迎え方

お寺で行うとき以外は、お坊さまの送迎は施主家の義務です。自家用車で迎えにいくか、ハイヤーなどの迎えの車を手配するかします。お坊さま自身が、車を運転して来られることもあります。いずれにしても、出向いてもらったときは、いわば出張費として、お布施とは別封で、「御車馬(しゃば)料(御車料)」を包みます。

お坊さまが到着されたとき、施主は必ず玄関まで出てお迎えします。門扉は前もって開いておき、玄関は掃き清めて、手水を打っておきます。ご法事開始の直前まで入口の戸を閉じたままの家がありますが、これは仏さまとお坊さまを招きするというご法事の精神に反します。施主は玄関でお坊さまにあいさつし、お控えの間までご案内して茶菓をお出しします。その後、家族一同そろってごあいさつをしましょう。

ご法事の祭壇前には、金襴もしくは緋や紫の座布団を置いてお導師用の席を設けます。また、その脇にお休みの席も設けておかなければなりません。宗派によっては、二回、三回に分けて読経があることもあるため、読経の間のお休みには、その脇の席でお茶を差し上げます。

ご仏前でのお焼香があるときは、お導師さまは脇に寄られます。そのとき正面の導師用の座布団は脇にずらして、お導師さまの席とします。焼香する人が、お導師さまのお座りになった座布団に座って、お焼香するのは感心できません。法役の方はよく注意しておきましょう。

読経が二回、三回に分かれる場合は、そのつど次の読経が始まる前に、お灯明を取り替えなければなりません。あわせて法役の方のお力添えが必要となります。

施主のごあいさつ

ご法事を主催する故人の喪主たる施主は、年回法要の開始と終了時には、お坊さまや参会者一同に向かって簡単なごあいさつを述べます。

1. 法儀開始のごあいさつ

参会者一同に、「本日は、お忙しい中、お集まりいただき、誠にありがとうございます。ただいまより、○○院〇〇〇〇大姉(戒名)、○○回忌の法要を勤めさせていただきます」と述べた後、お導師さまに対して「それでは、どうぞよろしくお願いします」と法要の開始を伝えます。

2. 法儀終了のごあいさつ

追善供養の読経・焼香・法話が終わり、お斎に移るとき、「本日は故〇〇〇〇の○○回忌に法要を勤めさせていただきました。お忙しい中、お参りいただきました皆さま、本当にありがとうございました。○○寺住職さまの厳粛な読経に、故人を偲び、たいへんよい時が持てました。続いて会場を代えて、粗飯(そはん)を差し上げたいと存じます。何もおもてなしできませんが、どうぞ召し上がりながら、故人の思い出話などを、お聞かせくださいませ」とあいさつします。あいさつが終わったら、お坊さま並びに参会の皆さまを、お斎の会場に案内します。これからは料理係(禅宗では典座(てんぞ)という)の活躍の場となります。

お焼香

お導師を勤められるお坊さまの合図によって、お焼香が始まります。まず、施主が一番にお焼香し、その後、血縁関係の濃い順にお焼香していきます。親族以外の参会者については特に決まりはなく、座席順に進めていけばよいでしょう。

お焼香の方法や回数については、すでに述べたとおりです(74ページ)。自分がお香を持参している場合は、そのお香を使ってお焼香します。自香をお焚きするのがお焼香の本来の姿です。お数珠を必ず着用し、まごごろを込めて合掌、礼拝いたしましょう。

お香を捧げるときに唱える偈文(げぶん)には次のようなものがあります。自ら深く反省して心を鎮め、悟りの世界への思いを深くしてお唱えしましょう。

戒香(かいこう)、定香(じょうこう)、解脱香(げだつこう)、
光明雲台遍法界(こうみょううんたいへんほっかい)
供養十方無量仏(くようじっぽうむりょうぶつ)、
供養十方無量法(くようじっぽうむりょうほう)
供養十方無量僧(くようじっぽうむりょうそう)
見聞普薫証寂滅(けんもんふくんしょうじゃくめつ)
『今、自分の生かされている世界は、あまねくすべてにそのご威光が行き渡っております。十方の多くの仏さまに供養し、十方の深い仏法のみ教えに感謝し、十方に在ます仏教徒に供養します。すべての教えを見聞し、普く薫じて、仏さまのみ教えを明らかにします。』この意味するところを自らの心として心をこめてお焼香するのです。

お坊さまへの謝礼
1. お布施

ご法事の際のお坊さまへの謝礼は“お布施”です。回向料、読経料などの文句を使ってはいけません。お布施は、施主が故人に代わって、仏教徒として仏教を盛んにするお手伝いをさせていただくため、仏さまやお寺、お坊さまに対してお供えさせていただくものです(170ページ)。

のし袋(不祝儀袋)に「御布施」と書き、「○○家」または施主の姓名を書きます。水引をかけるのが正式で、これはお布施させていただきますという施主のこころをあらわすものです。水引の色は黒白、黄白、または銀一色とします。お包みする紙幣は、なるべく新しいものを使い、たたまずに入れます。むき出しで、紙幣や小切手を渡すのは非常識です。

お布施は、お読経とご法話が終わってから、お坊さまを別室に案内して、失礼がないように気を付けて渡します。ご法話の席などで、参会者が注視する中での渡し方は、たいへん失礼です。注意しましょう。

お布施には原則として金額に決まりはありませんが、仏教活動を維持し、発展させていくには、自ずと最少限に必要な金額が決まってくるものです。施主たるものは、仏道修行の途上にある故人に代わって、布施行(ふせぎょう)の功徳を積み、その功徳を回向させていただくのです。

一応の目安としては、

●都会と地方、それぞれの地域の慣行
●お寺の格式やお導師を勤められるお坊さまの地位や宗派の違い、
●故人が授与されたお戒名や法名などの違い、
●年回の軽重、

これらを勘案して、あくまでも布施の心を第一にお布施しましょう。

このような個別な条件を離れて、標準を示すとすれば、およそ年回法要のお布施は、三万円から五万円、十万円もしくはそれ以上が多いようです。(平成六年度調べ)。

お導師さまが伴僧(ばんそう)(お供のお坊さま)をお連れになっていた場合には、伴僧一人に対して、お導師のお布施の半額を目安に考えてお包みします。また、お塔婆を建てたときには、別に「御塔婆料」を包みますが(206ページ)、お塔婆料はお寺によって違いますので、お寺にお尋ねになるとよいでしょう。

2. 御車馬料(御車料)と御膳料

ご法事を自宅または霊園などで営み、お坊さまに出向いてもらった場合は、お布施のほかに、別封で「御車馬料」を用意してお渡しします。「御車料」ともいいます。施主が実際に自家用車やハイヤーで送迎した場合であっても用意します。金額は、よほど遠方でない限り、一万円程度が多いようです(平成六年度調べ)。

なお、施主側の都合でお斎を省略するとき、またはお坊さまの都合でお斎への列席がないときは、「御膳料」を包みます。もっとも、地域や宗派の慣行により、列席の有無にかかわらず、お包みしなければならない場合もあります。御膳料は五千円から二万円程度(平成六年度調べ)で、それぞれの事情やお斎の規模によって勘案(かんあん)するとよいでしょう。

参会者(招待された人)側のすること

ご法事に招かれたら、特別の用事がない限り、できるだけ参加するようにしましょう。故人や遺族のためにだけでなく、自分自身のためにも、ぜひお参りしたいものです。ご法事の席に、故人と親交のあった人たちが、一堂に会して旧交を温め合うことは、故人の菩提(ぼだい)を弔い、追善供養することと同じぐらい大切なことです。

仏教では、ご法事を営むことを“勝縁(しょうえん)である”といいます。尊い仏の教えに出会うことができる“すぐれたご緑”は、人生に何度もあるわけではありません。仏事・法要という“有り難いご緑″を積極的にどんどん起こしていくのが、仏教徒の生き方です。弱肉強食・仏教の説く餓鬼世界・修羅世界で苦闘する現実の人生において、人間としての情操を培っていくことは、老若男女を問わず大切です。案内を受けたら、まず参加しようとの心構えをもつこと──これが正しい縁起(えんぎ)の道理(どうり)にかなうのです。ご法事はまたとない宗教的情操を培う場であり、特に子供たちにとっては、しつけ(躾)のよい機会です。

返事はすみやかに

施主から、ご法事へ招待する旨の案内通知を受け取ったら、できるだけ早く返事をしましょう。できれば返信を出す前に、電話を入れておくのがよいでしょう。施主側の準備を思いやることが大切です。また、ご法事の案内通知は、よくあるダイレクトメールの案内ではありません。そこには“あなたにお参りしていただきたい”という、施主側の“布施の心”が宿っているのです。

1. 出席の場合

できるだけ施主の心に応えるよう、積極的に、出席の返事を出しましょう。出席する場合は、その旨の返事だけでよいのです。さらに一言申し添えることも、招かれた人の心を相手側に伝えるためにも大切です。

不幸があって間もないときには、「お招きいただいてありがとうございます。お寂しいことでしょうが、どうぞ、お体を大切になさってください」とか、何回目かの年回法要であれば、「もう○○回忌とは早いものでございますね。お子さまも大きくなられたことでしょう。当日、お会いできるのを楽しみにいたしております」などと書き添えます。

2. 出席できない場合

招待を受けたのに、やむを得ない事情で出席できないときは、早めに欠席の旨を伝えます。ご法事が三回忌(大祥忌)までのときは「御仏前(ごぶつぜん)」を送ります。同時に、遺族の近況を尋ね、励ます内容の文面を添えます。故人と縁が深い場合は、この他にお香やお花などのお供物、もしくは御供物料(おくもつりょう)、供花料を届けます。

また、ご法事当日は駄目でも、できればご法事前に機会があれば訪れてお焼香し、お参りしたいものです。この場合、電話などで、必ず事前に先方の都合を確かめるのを、忘れないようにしましょう。

服装は

ご法事のとき、施主側は、招かれた側より軽い服装をしてはならない決まりがあります。その意味から、丁寧なつもりでも、招かれた側が正式の喪服を着用することは、避けねばなりません。略式喪服または地味な外出着が一般的です。男性なら紺やグレーの背広、女性も地味な色彩のスーツやワンピースでもかまわないでしょう。七回忌以降の法事であれば、それ以前よりも、もう少し軽い服装にしてもよいといわれています。

どの程度の服装にするのか迷うときは、一緒に行く親戚の人や年配の人に聞いて、その服装と同程度のものを着て行くようにすればよいでしょう。案内通知に、服装についての指示があればそれに従います。

また、お数珠は絶対に忘れないように持参しましょう。なお、一連(いちれん)の短いお数珠は、通常左手首にかけておき、合掌するときに両手にかけて親指で押さえるようにします。二連(にれん)の長めのものは、両手の中指にかけて、合掌するときに手のひらで軽くこすり合わせるようにします(70ページ)。

「御仏前」やお供え物(「御供物料(おくもつりょう)」)は

ご法事に招かれたら、「御仏前」(「御香料」もしくは「御香資(こうし)」ともいいます)を包み、お供え物もしくは「御供物料」を持参するのが常識です。お供え物には、お香(抹香・線香)、生花(花籠・花束)、お菓子折、果物などがあります。しかし、自宅以外のお寺や墓前でのご法事では、これらのお供え物はお寺側で用意されるのが普通ですし、自宅でも同じようなお供え物が重なってしまうことがよくあります。「御供物料」として、現金を包んで持参するほうが、先方にとってもよいと思われます。

不祝儀袋に「御仏前」(四十九日までは「御霊前」)、さらに「御供物料」を表書きをして、下に姓名を書きます。水引の色は、黄白や銀白がご法事にふさわしいといえます(中陰の間は黒白がふさわしい)。また、“のし”は祝儀の“のしあわび”の略称で、生ぐさものですから弔事には用いません。

「御仏前」の金額は、一般にお香奠(こうでん)の額の五割~七割が目安とされています。しかし、年回が一周忌か七回忌か、食事どきかお茶の時間かによって、また、地方のしきたりによる違いもあります。この目安の範囲で、何回忌の法要なのか、食事をご馳走になるのか、お茶だけなのかなどを勘案して決めればよいでしょう。

この「御仏前」の包みや、それに添えるお供え物は、本来、ご霊前に手向けるものですが、受付があれば、接待係の遺族に、受付のないときには、直接施主に渡せばよいでしょう。

また、お塔婆を建てるときには、返事を出す際に施主に伝えておき、当日「御塔婆料」としてお包みし、施主に渡します。

遅くとも法要開始十五分前までに

ご法事の開始時刻前には必ず到着し、絶対に遅れないことが大切です。施主側にいらぬ心配をかけることは、厳に慎まなければなりません。遅くとも十五分前までには会場に到着して、施主にあいさつするようにしましょう。「ご通知いただき、ありがとうございました。本日は、皆さまとご一緒に、ご供養させていただきます」などとあいさつし、祭壇に向かってお焼香します。あとは所定の場所で、法要の開始まで控え目な態度で静かに待ちます。声を出したり、騒いだりしてはいけません。

幼い子供たちのしつけ

ご法事は、またとない宗教的情操を培う場でもあります。「三つ子の魂百まで」の諺(ことわざ)にあるとおり、幼い子供時代の仏事法要への参列は、その子にとってたいへん印象深いものです。小生も四、五歳のころ、祖母に連れられてお参りした京都・東本願寺の光景を、今でも思い出すことができます。許されることなら子供たちも進んでご法事に参加させるようにしましょう。しかし、読経中に走ったり、騒いだりして他に迷惑がかからないように、前もって言い聞かせておくことが大切です。保護者が子供を“しつけ(躾)”るよい機会です。

読経、法話中の禁煙、静粛

ご法事はご先祖や故人へのお供養ばかりでなく、自分を取り巻くすべての世界への感謝の心のあらわれです。したがって、ご法事は、見返りを求めない行いであって、厳しい現実を生きる私たちができる大きな善行なのです。参会者もお坊さまの声に和して、読経の功徳を積ませていただきましょう。読経中にタバコを吸ったり、おしゃべりをしたりするのは、実に不謹慎です。ご法話の間も同様に、禁煙し、静粛にしましょう。

ご仏前では衣服を改めて

料理係となって、霊供膳の調理や会食の準備に忙しい主婦の人たちは、時間に追われて法儀そのものはおそろかになりがちですが、せめてお焼香だけはしていただかねばなりません。そのとき、エプロン姿でのお焼香は不作法です。ご仏前では衣服を改め、身なりを整えてお焼香しましょう。

ご法事進行の基本型

祭壇における年回法要の法儀の式次第(基本型)は、次のようになるのが普通です。

1. 法役にあたった人が、祭壇にお仏飯(霊供膳)を供え、お灯明をつけます。曹洞宗では、さらに二本のお迎え線香をたてておきます。
2. 定刻になって、お導師さまが入場されると、主催する施主によりご法儀開始のあいさつがなされます。
3. お坊さまの導師により、献香のあと読経が開始されます。参会者一同も一緒に唱和します。
4. 適当なときを見計らって、お導師さまの合図により、お焼香となります。お焼香には、祭壇へ進前して行う場合と、自分の席でする「回し焼香」の場合の二通りの仕方があります。進前してするお焼香でその順序が決まっているときは、法役にあたっている人は、その指図・案内をして、スムーズにお焼香が進行するように努めます。いちばん最初は、主催者である施主がお焼香しますが、大勢のときは最後に親族代表による「止焼香(とめしょうこう)」を決めておくと便利です。一般参会者は、席順に手際よくお焼香に立ちましょう。遠慮して譲り合ったりしないで整然と行います。法事の流れを乱さないように、見苦しくないように注意することが大切です。

 一般的な作法は、

●焼香台のあるご仏前に進む。
●ご本尊・遺影・お位牌を仰いで合掌、礼拝する(このとき座布団があればこれを脇に寄せて謙譲し、決してその上に座らないようにします)。
●お香盒の抹香をつまみ、念じて香炉へお焼香する
●心からのお焼香が終わった後、合掌・礼拝する。
●ご仏前から退いて自席に戻る(お焼香の作法については74ページ)。

5. 全員のお焼香が終わり、お経を挙げ終わると、お導師さまによる年回のご回向があります。
6. ご回向が終わると、お坊さまは、その場で参会者のほうに向き直られて、ご法話をされます。このご法話については、施主が事前にお坊さまに、故人のことや、お話していただきたいことなどを、申し出ておくとよいでしょう。
7. ご法話が終わると、ご法事を主催する施主のお礼のあいさつがあり、これで祭壇前でのご法儀が終了するのです。その後、墓参やお斎があれば、施主はその旨を参会者に申し添えます。

お斎(とき)── ご法事の会食

祭壇前での読経→焼香→回向→法話の法儀を終えると、参会者全員でお墓参りに行きます。墓前では、浄土真宗以外の宗派では、ご供養するための年回塔婆を建てます。この墓前のご供養を終えたのち、お斎に移るのが本来の姿です。しかし最近、都会では、「墓参は、別の機会に改めて…」あるいは「お斎のあと、身内だけで…」とされることが多くなりました。

お斎とは、サンスクリットのウポサタ(清浄)の訳に由来しており、僧侶が午前中にとる食事、または法事などで参会者に振る舞われる飲食のことを意味します。

本来は、お斎も法事の一部ですから、導師を勤められたお坊さまを招くときは、必ず正面中央、一般的には祭壇(仏壇)の前に座っていただきます。すなわち、お斎では、お坊さまが正客(しょうきゃく)なのです。

お膳、お酒などは、必ず正客であるお坊さまから先に差し上げます。法事のお斎は、七人分をご馳走すれば、一人分が故人に回るといわれます。六人分は施主が功徳を積むことになるので、参会者が喜んでその席に連なり、お箸をつけることが、故人の供養になるわけです。

これ以上の殺生は慎もうとする精神から精進料理を供するのが本来の建前です。

しかし、今日の食生活の中で、肉食を避けて菜食料理中心の精進料理は、言葉でいうほど簡単なものではありません。精進であることにあまりこだわれないのが現状です。ただし、仕出し屋や料理屋に予約注文するときには、必ず法事のお斎であることを連絡しておきましょう。これは慶事用の料理を省いてもらうために重要です。

萩の寺では、秋彼岸の「萩まつり」に純正の精進料理「火打飯(ひうちめし)」の供養接待を行います。精進の心を大切にするとともに、法事での伝統的なお斎の姿を今に伝えようと企画されています。これは、実際にはあまり精進にこだわれない現実のお斎について、せめて本来の姿を知ってもらおうと修行されているのです。

お斎はなるべく和(なご)やかに進め、親交を温めたいものです。故人を追慕し、話題がはずむのも結構なことです。できれば、参会者の誰かに、故人の思い出をスピーチしてもらってもよいでしょう。しかし、お斎はあくまでもご供養であって、宴会ではありません。放歌高吟や隠し芸の出し合いになるのは不謹慎です。その点を、主催者も参会者も心得ておかなければなりません。

お斎を始めるとき、施主は「本日は、故人のために、わざわざお運びいただき、お焼香を賜り、誠にありがとうございました。さぞかし故人も喜んでいることと存じます。また、過分にお香資をお供えくださいましたこと、厚くお礼申し上げます。本日は、粗酒、粗肴(こう)ではございますが、時間の許す限り、ゆっくりとおくつろぎいただき、故人の思い出話などに花を咲かせていただければ幸いと存じます」などとあいさつします。

終了時にも、お斎の主催者として施主はあいさつし、ただ漫然とした会食にならないように留意します。なお、お坊さまによって「食前のことば」「食後のことば」などを唱えることもあり(38ページ)、場合によっては、「献盃(けんぱい)(杯)」の発声がなされることもあります。献盃は法要後のお浄めの意味で行われる場合が多いのですが、本来は仏さまにお供え物を献ずる献供(けんぐ)からきている作法です。

お斎の会食は、一~二時間の時間を要しますが、頃合いをみて引出物が配られます。参会者のお膳の前に、お供え物のおすそ分けがあれば、それも一緒に配ります。引出物が配られることは、まもなくお斎が終わるという合図です。なお、引出物は一世帯に一個ずつ用意します。

引出物は古くは、馬を庭に“引き出して”饗宴の客に贈ったことに由来するといわれています。その意味では、神仏にお供えする「絵馬(えま)」が、本来、神仏に馬を奉納する(馬を引出物にする)古来の習俗に根差しているのと同様です。

法事のお斎は、できるだけ営むにこしたことはありません。しかし、事情によって会席を設けることのできないときは、参会者に折詰を持ち帰ってもらうようにします。お酒の小瓶を添えるとなおよいでしょう。また、お坊さまが出席されないときも同様です。このときは、さらに「御膳料」をお包みすることは、前に述べたとおりです(216ページ)。

ご法事の費用

規模を決めて、予算を立てる

ご法事に際しては、その規模を決めて予算を立てます。具体的な目安としては、1招待の人数、2会場の設定、3お斎の会食費、4引出物、5菩提寺へのお布施、6多少の心付けなどを考慮して、規模を決定して予算を立てましょう。

1. 招待の人数

まず、菩提寺のお坊さまに来ていただくことが必要です。ご法事の規模によって二~三人のお坊さまに来ていただかなくてはならないときは、その旨も、菩提寺のご住職にお伝えしましょう。

次は、親戚を含めての縁故者に来ていただかなくてはなりません。葬儀に参列していただいた方全員に、案内を出すというのは不可能です。その中から故人と特に縁の深かった人を招侍します。一周忌の場合は、遠慮しないで友人、知人、葬儀のお世話役などもお紹きし、全部で二十人から三十人ぐらいが一般的な規模とされているようです。

2. 会場の設定

自宅の場合はさておき、菩提寺のご本堂や檀信徒会館で営む場合は、会場としてお借りするのに、護持会の規定やお寺の内規があるでしょうから、そのことをよく伺って、その規定に従ってください。ご仏前やお墓へのお供え物なども、お寺で用意するか、自分でするか、また規模はどの程度にするかについては、ご法事の会場をいずれにするかで変わってきます。

お寺でご法事する場合は、一般的にご本尊さまへのお供花とお供え物、霊供膳などが必要です。通常はお寺のほうで用意していただきます。

霊園、ホテル、料亭、公民館などでも同じでしょうが、本来ご法事は・仏・法・僧の三宝供養が命です。できるだけ菩提寺かお仏壇のある自宅で営むことが、ご法事の心にかなっているといえるでしょう。

3. お斎の会食費

会食の方法としては、お寺でも自宅でも、●自家製、●仕出し屋からとる、●料亭などに出かける、という三通りの方法があります。

お仏前に供える霊供膳は、精進料理でなければなりませんが、お斎そのものは、実際的に精進料理にこだわれないのが現実です。仕出しをとるのが一般化しているようですが、料亭などへ出向く場合は、タクシーなどの交通費も考慮に入れて、予算を立てる必要があります。

都合によっては、お斎を省略し、お茶とお菓子だけで、和やかに歓談し、故人を偲ぶことも悪くありません。この場合は、引出物と一緒に折詰の弁当を持って帰ってもらい、お斎に代えることもできます。

4. 引出物(お供養品)

参会者一世帯に一個、注意すべきは故人のご仏前とお坊さまにも引出物はお出ししなければなりません。その分を計算に入れておきましょう。

5. 菩提寺へのお布施

導師をつとめていただいたお坊さまには、「御布施」「御膳料」「御車馬料」をお包みします。お塔婆を建てるときは、「御塔婆料」もまとめてお渡しします。また、これとは別に、ご法事の機会に、お世話になっている菩提寺に、仏具などの供養の品を贈ることも大切です。お寺と相談して奉納しましょう。

なお、三十三回忌や五十回忌のご法事は、亡き人にとっては、その精霊が浄化され「ご先祖」に昇華する大切な法要で、これより先は先祖代々の霊に融合していくといわれています。したがって、このときは、永代供養(えいだいくよう)のため、ある程度のまとまったお金を納め、今後のご供養をお寺にお願いしておくことを忘れてはならないでしょう。

6. 多少の心付け

お寺などで、茶菓の接待を受けたときには「茶菓料」を、料理屋では「心付け」を常識として包みます。

主催は長男でも、費用は分担が望ましい

親の遺産はその子に均分に相続されるというのが、わが国の相続法の定めるところです(民法第九〇〇条)。このような遺産相続を認める根拠は、故人の人格を承継するのが、その子供たちであるから、故人の財産もその意味で子供たちに相続されるべきだとする考え方からきているのです。

ところで、系譜、祭具および墳墓などの祖先をまつる祭祀用財産は、喪主に相続されることとなっています(民法第八九七条)。この規定は、旧法の時代に戸主制度のもと、ご法事の費用はもちろんのこと、菩提寺やお墓の護持の費用も全部喪主が負担していた、わが国の慣習の存在を前提としています。その保証の一部をなすであろう故人の遺産は、全部そっくり喪主となる戸主に相続され、その限りで、喪主は、ご先祖をおまつりするのに要する全費用を負担することは、当然のこととされてきました。

しかし、現在、法的にもそうなる保証はありません。喪主一人にご法事の費用を負担してもらうことは、不合理であり、おかしなことです。親の遺産を相続した子供たちは、誰しもが平等に、故人のご供養へお布施を出し合うべきです。遺産分割の際に、祭祀に要する費用を計算して、それを信託的に預金しておいて、五十回忌までに取り崩していく方法や、ご法事のたびに、相続人たる兄弟姉妹が、会合を持って費用を分担するケースもあるようです。

しかし、これでは、ご先祖をおまつりするのに大切な反省・感謝・報恩の心が芽生えてきません。できれば、ご法事に招待された喪主以外の相続人たる子供たちは、自分の現在あることに感謝の念をもって、そのご法事にかかる費用を推量し、日頃お世話していただいている喪主へのお礼や、今は亡き親への報恩の意味を込めて、「御仏前」または「御香資」「御香料」を包ませていただくべきでしょう。ご法事を主催するのは喪主たる長男でも、費用は相続人たる子供たちが分担するのが望ましいとしているのが、わが国の基本法の立場です。

合掌
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