先祖を祀る

正しいお焼香を―まごころをこめて

東光院萩の寺住職 村山廣甫

合掌、礼拝、お数珠と仏事の基本を述べてきましたが、もう一つ仏事に欠かせないのが、正しいお焼香です。仏教では、葬儀あるいは法事には必ずお杏を焚(た)きます。

『華厳経(けごんきょう)』には、香の十の徳として、①精気を増益する。②身体を芳潔にする。③身体の温涼を調節する。④寿命を延ばす。⑤顔色を引き立てる。⑥精神を爽快にする。⑦耳目(じもく)を鋭くする。⑧健康にする。⑨媚態(びたい)と愛嬌(あいきょう)を増す。⑲品位を高める、を挙げています。

香りは人の心を快くするものですが、経典の中ではお焼香、塗香(ずこう)などと、仏さまをご供養する大切なものの一つに挙げています。

さらに、法(おしえ)の功徳をお香にたとえて、戒香(かいこう)、聞香(もんこう)、施香(せこう)などともいいます。このようにお香を仏さまにお供えするとともに、芳香によって身心を清めるという考え方は、仏教ばかりでなく、キリスト教における「散香」にもみられます。

密教では修法の種類によって、お香を区別しており、仏部...沈香(じんこう)(光沢のある黒色の優良品を特に伽羅(きゃら)という)、金剛部...丁子(ちょうじ)香、蓮華部...白檀(びゃくだん)香、部...龍脳(りゅうのう)香、羯磨(かつま)部...薫陸(くんろく)香、というように、それぞれ仏教教理にたとえていますが、一般には、五種香、七種香といっていろいろなお香を混ぜたものを、お焼香に用いています。

正しいお焼香法

香炉は左右に仕切られていて、右に沈香または抹香(まっこう)(粉になっている)、左に火種を入れるようになっています。

すでに説明したように(34ページ)、仏さまは、“善き人の香り”をいただかれるので、まずお香を右手でいただき、額(ひたい)の高さまであげて、心を込めて仏さまを礼拝します。このとき、左手を右手の下に添えると敬虔な姿となり、一層“念”がこもります。

「正念(しょうねん)にしみる」という言葉のとおり、まさに仏さま、ご先祖さまへの正念がこもった礼拝でなければなりません。これを、「正念のお焼香」といいます。真剣であれば正念は一回で足りるはずで、曹洞宗では二回目からのお焼は、「従香(じゅうこう)」と呼んでいます。

正念のお焼香に託した私のまごころ―――礼拝供養のこころを、さらに広大にするため、お焚きするのです。ですから、二回目以後は、単に先のお香に添えるだけで念ずる必要はありません。

お焼香の回数は、宗派によって異なります。

●三回焼香
真言宗・天台宗(身・口・意の三業を清める)、日蓮宗(仏・法・僧の三宝に捧げる、ただし一回焼香も多くみかける)、浄土宗(戒香・定香・解脱香、ただし「一心不乱」と一回もある)
●ニ回焼香
曹洞宗(一回目は仏への正念香、二回目は従香)、臨済宗、真宗大谷派(東本願寺)
●一回焼香
浄土真宗本願寺派(西本願寺)

また、お焼香の仕方も宗派によって多少異なりますが、一般的には次のように行います。

  1. まず、法要の導師をしているお坊さまに一礼して(特に、座ってお焼香する場合は、きちんと座って、お坊さまに一礼するようにしたいものです)、焼香台のある仏前に進み、焼香台の二、三歩手前でご本尊、故人の遺影、さらに、お位牌を仰ぎ、軽く一礼します。
  2. 焼香台の前に進み、右手でお香をつまみ、軽く左手を添えるようにして額のところまでいただき、ゆっくり念じて一度、さらに二度目からは、宗派の定める回数まで、先のお香に添えるようにして、額にいただかずに火中に薫じます(ただし、通夜、葬儀のときは人数が多いので、正念のお焼香一回とするのが慣行化してきました)。
  3. お焼香をし終わったら、回向する方の冥福を祈り、お数珠を両手にかけて合掌・礼拝します。それぞれの宗派に応じて、お真言、お念仏、お題目などを低声に唱えます。
  4. 遺族、親族に会釈して退きます。「回(まわし)焼香」のときも、お焼香のやり方は普通の焼香と同じです。

お線香のあげ方

お線香は、寛文八年(一六六八年)、中国の帰化人、清川八郎兵衛という人が長崎でつくったのが始まりと伝えられています。インドや中国のお線香には、竹や紙の芯が入っていますが、日本のお線香は、香料そのものを練り固めてつくられています。

お線香のあげ方や本数は、宗派によって異なります。

●三本ずつ…真言宗、天台宗、日蓮宗(一本の場合もある)
●二本ずつ…浄土宗、真宗大谷派(東本願寺ただし燃香)
●一本ずつ…曹洞宗、臨済宗、浄土真宗本願寺派(西本願寺ただし燃香(ねんこう))

曹洞宗では、二本を横に少し離して立てたものを「迎え線香」といい、その手前中央に一人一本、供養のお線香を立てます。「一即多」、「全即一」の心で一本立てるのです。また、真宗では線香を立てずに、土香炉に線香を適宜折って、一、二本を横に、火のついているほうを左にして灰の上に置きます。「燃香」と呼ばれる真宗独特のお線香のあげ方です。

お焼香にしても、お線香にしても、いずれもお香を捧げてお供養するわけですから、本来ならば自分が選んだよい香りの香(自香(じこう))を持参するものです。しかし今日では、すでに備えられた抹香やお線香を利用させていただいておます(借香(しゃっこう))。せめて、まごころを込めた、敬虔なお焼香をしたいものです。

合掌
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